愛着障害について

もし母親が精神的に不安定であったり、子どもをネグレクトしたり、母親が突然家を離れてしまったりした場合、その子どもはどのように成長していくのでしょうか。一般的に、子どもは10歳前後まで家庭内の親子関係を基盤として成長すると言われています。特に母親が子どものメンタルに与える影響は非常に大きく、母親からたっぷりと愛情を受け取ることで、子どもの心は安らかに育まれます。

しかし、母親から十分な愛情を受け取れない場合、子どもは精神的に不安定となり、人間関係において適切な距離感を保つことが難しくなることがあります。また、自己肯定感や幸福感が低い大人へと成長してしまう可能性があります。

当クリニックにも、こうした愛着障害を抱えて受診する患者さんが多く、特に女性の割合が高いです。彼女たちは強い不安感やコミュニケーションへの緊張、低い自己肯定感に悩み、不安障害や抑うつといった症状を訴えています。

不安感や抑うつ気分に対しては薬物療法を行うことができますが、根本原因である愛着障害を改善しない限り、真の回復には至りません。しかし、母親を治療の現場に引き出して問題に取り組むことは現実的ではありません。

このような状況において、「代償体験」が症状の改善に役立つと考えられます。例えば、患者さん自身が家庭を築き、自分の子どもに愛情を注ぐことで、母子関係の「追体験」をすることができます。この過程が、患者さんにとって癒しや回復への一歩となり得るのです。また、この時に彼女を支え受け止めてくれる友人やパートナーがいることは、さらに効果を高める要因となります。

家族や周囲の人々が、患者さんの愛着不足による「心の隙間」を埋める体験を提供することが、患者さんにとって成功体験となり、少しずつ自己肯定感を高め、不安感や抑うつ症状が軽減される可能性があります。暖かい家庭での体験が、愛着障害の改善への鍵となるのではないかと考えています。