アスペルガー症候群について

最近、コミュニケーションに関する悩みで心療内科を受診される方が増えています。
例えば、夫との会話で意図せず予想外の返答をしてしまうこと、友人がSNSを離れた理由が「本人が無意識に不快な発言をしていたため」などが挙げられます。また、ルーティン業務に加えて複数の仕事を任され、パニックに陥ったり、日常的に接する人とどう会話していいかわからず、相手の話を理解するのに時間がかかるといった訴えも見られます。こうした方々は、自らのコミュニケーション能力に悩み、焦燥感や抑うつ状態に陥っています。

これらの悩みの根底には、アスペルガー症候群が関係している場合が少なくありません。アスペルガー症候群は、オーストリアの小児精神科医ハンス・アスペルガーによって「自閉的精神病質」という診断名で定義され、以下のような特徴的な症状が見られます。

  1. コミュニケーション障害:会話の理解が難しく、相手の気持ちを汲み取ることができない、友人関係を築くのが難しい、冗談や皮肉が理解できない。
  2. 興味・関心の限定:限られた分野に強い関心を持ち、時には並外れた知識や能力を発揮することがある。
  3. 繰り返しの好み:ルーティンを好み、突然の変更にパニックを引き起こす。
  4. 不器用さ:身体的な不器用さが目立つ。
  5. 過敏さ:騒がしい場所を嫌う。
  6. 視空間認知の低さ
  7. 学習における著しい得意不得意

現在、アスペルガー症候群を根本的に治療する方法は確立されていません。オキシトシンという脳内神経伝達物質の点鼻薬や、TMS(経頭蓋磁気刺激療法)といった治療法も試されていますが、効果ははっきりしていません「人の気持ちが聴こえたら」という書籍には、TMS治療を通じて症状が改善した体験が記されています。

当クリニックでは、抑うつやパニック症状には薬物療法を、コミュニケーション障害にはSST(ソーシャルスキルトレーニング)を、パニックによるトラブル回避には認知行動療法を提供しています。最近では、ADHDとアスペルガー症候群を併せ持つ女性患者が治療を通じて会話の円滑さが改善し、パニックによる衝動的な行動も減少しています。精神療法の効果が期待でき、寛解に近づくケースも増えています。